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大阪地方裁判所 昭和37年(ヨ)1180号 判決 1963年3月29日

申請人 床田正太

被申請人 朝日自動車株式会社

補助参加人 朝日自動車労働組合

主文

被申請人は申請人をその従業員として取扱い、且申請人に対し昭和三六年一二月一一日以降一カ月金三八、九〇〇円の割合による金員を毎月二八日限り仮に支払え。

訴訟費用は被申請人の負担とする。

(注、無保証)

事実

第一、当事者の求める判決

(一)  申請人 主文同旨。

(二)  被申請人 申請人の申請棄却および訴訟費用申請人負担。

第二、当事者間に争のない事実

申請人は昭和三二年三月二八日被申請人(以下単に会社という)に臨時雇として入社し、同年五月二八日から本雇の従業員としての地位を取得した。会社と、その自動車運転士で組織する被申請人補助参加人(以下単に組合という)との間にはユニオンショップ協定が締結されているので、申請人は従業員としての地位取得と同時に組合に加入することとなつたが、組合執行部のあり方にはつねづね批判的であつた。昭和三六年一一月初旬、申請人が会社で作業中、組合員石田豊から会社の常務と組合のあり方について話合うため会わないかと言われた(結局常務とは会わなかつた)。同月一三日から組合が会社に対して行なつていた年末一時金要求闘争は同月二八日に解決した。同日夕刻申請人(当時組合執行委員)は右闘争委員東川勝彦、組合執行委員松村勇とともにブルーシーというバーで飲酒した。同年一二月六日、組合執行委員会は申請人除名を議題とする大会の招集を決定し、組合規約上は大会の招集には開催までに三日の余裕をおくべきであるにかかわらず翌七日に開催すべき旨の招集をなした。この招集方法は掲示によつてなされ、一部組合員に対しては電報がうたれた。同月七日、大会が開催され、申請人を組合から除名する旨の決議がされた。除名の理由は「会社の買収に応じ、組合に不利益を与えたこと」であり、具体的には

(イ)  第二組合結成の目的で常務と会合しようとしたこと(前記石田の件)

(ロ)  会社営業部長の金で飲酒しようとしたこと(前記ブルーシーの件)

の二点である。同月一一日、会社は申請人が組合から除名されたことを理由に申請人を解雇した。なお申請人は会社で就業中社内でも一、二を争う程作業成績優秀で、一カ月の実収入は五万円を超えていたが、現在三人家族で他には就職していない。

第三、申請人の主張

一、除名処分の無効

(1)  除名事由の不存在。組合のなした除名処分の事由とされている前記(イ)について申請人はその申出(常務と会合しようという)を断わつているし、(ロ)について、営業部長からブルーシーを紹介して貰つたけれども部長に金を出して貰うつもりはなく支払は松村、東川と三人で分担した。組合員が使用者又は使用者と認むべき者と交際するについてはその時期方法等について組合の統制を乱したり団結を弱めたりしないよう留意すべきは当然であるが、如何なる交際をも許されない訳ではない。右(イ)(ロ)の申請人の所為は右の点からみて何ら組合の統制を乱したり団結を弱めたりするものではなく、従つて組合に不利益を与えるものではないから、組合が除名の根拠として掲げる組合懲罰規則第二条(三)イ「使用者及び使用者と認むべき者に通牒、密告、買収等組合に不利益な行為をなし又はなさんとしたとき」に該当する事実は存在しないのである。

(2)  除名処分の不相当。仮に右が理由なく申請人の所為がいささかでも懲罰事由に該当するとしても、その制裁方法として除名処分をもつて臨むことは苛酷であり、就中本件のように組合と会社との間にユニオンショップ協定がある場合にはそれは単に組合からの放逐だけでなく従業員としての生活基盤の剥奪をも意味するから除名処分は客観的妥当性を欠くものである。

(3)  除名手続の瑕疵。

(イ) 大会の不存在、組合規約第九条には組合員の「除名に対しては大会の議に附」さなければならないと規定されているが、ここでいう大会とは同規約一四条の「定期大会」と「臨時大会」とを意味するものと解すべきである。昭和三六年一二月七日申請人の除名決議がなされた集会は大会という言葉が使用されているけれども、もとより定期大会ではなく、また臨時大会として招集され、或いは集会の途中臨時大会に切替えられた事実はないのだから、いわゆる職場大会とみるべきであり、従つてそもそも組合員を除名することのできない集会で申請人の除名がなされたのである。

(ロ) 大会招集の瑕疵、組合規約第一四条2の註には「大会を開くには少くとも三日以前に開催の理由、議案、日程、場所その他必要なる事項を組合員全員に知らさなければならない」と規定している。かりに申請人の除名決議がなされた集会が同規約第九条にいう「大会」であるとしても右大会はここに定めている手続に違背している。すなわち、組合は大会の前日である昭和三六年一二月六日午後一時に会社内の組合掲示板及び納金所の二カ所に大会を開催する旨のビラを各一枚宛掲示するとともに、会社の事業の性質上存する公休組合員に対し電報を打つたのであるからこれは右所定の猶予期間をおいていない。そのビラの内容も大会開催の日時、場所以外には「不当労働介入、除名問題」と記載してあるだけで被除名者の氏名さえも示されておらず、まして電報文に至つては「アスデラレタシ」とのみで他の何らの記載もない。また、ビラの掲示ではその時間、場所からして全組合員にその内容を知らせることは不可能であり、電報も、公休組合員六〇余名中の三〇数名にしか打つていないのであるから組合員全員に知らせたことにはならない。

(ハ) 大会運営の瑕疵、大会運営規則第一四条(3)には大会での「討論の発言順序は原則として提案に対する反対意見を先にし逐次交互に意見が発表されるようにおおむね公平に発言をとりあげる」ようにしなければならないと定めている。しかし本件大会ではまず除名の提案をなしそれに対する賛成意見をすべて先に発表させて反対意見を封じ、最後に申請人に弁明の機会を与えたにすぎないのであるから発言の公平が損なわれている。

(ニ) 異議手続の瑕疵、組合規約第一〇条、懲罰規則第六条、第七条には懲罰決定に対する異議申立権、異議申立方法ならびにその処置について「懲罰決定に本人が不服のときは七日以内に再審査及び異議申立をすることができ」右申立のあつたときは「執行委員会によつて審議」し、この場合「異議申立者は執行委員会に出席して異議内容を申述べることができる」としている。申請人は除名決議後組合の執行委員会に対し書面で右決議に対する異議申立をしたが、執行委員会は申請人に対し呼出し等の連絡をすることなく、すなわち執行委員会に出席して異議内容を申述べる機会を与えることなく、一二月一一日付で右申立を却下する旨の通知をしてきた。

以上のように、本件除名処分はその実体において不適法乃至不相当であり、その手続にも幾多の瑕疵があり、且これらはいずれも重大なものであるから本件除名処分は無効のものである。

二、解雇の無効

会社がなした本件解雇は組合の除名処分が有効であることを前提としているのだから、除名処分が前記のとおり無効である以上、当然解雇も無効である。

三、保全の必要性

申請人は会社を被告とする解雇無効確認等の本訴を提起するため準備中であるが、目下唯一の収入の途を失ない、一家の生活は次第に窮迫しつつあるので、著るしい損害を避けるため本件申請に及んだ。

第四、被申請人の主張

会社と組合とのユニオンショップ協定はいわゆる完全ユニオンではなく、会社は組合を除名された従業員について組合と協議のうえ引続き雇用することもできるので組合から会社に対して除名通告があつてからも三回に亘り右協議をしたけれども両者の意見が一致せず争議権を背景とする組合の解雇要求に屈伏してやむなく申請人を解雇したものである。

第五、被申請人補助参加人の主張

一、除名事由

(イ)  申請人は石田から会社の常務と会わないかと言われたのに対しもし第二組合結成の試みが失敗した場合、会社としては身分保障をどうしてくれるか、第二組合結成の軍資金はどうするか、を右石田にききかえした。石田は当時組合の行き方に批判的ではあつたけれども第二組合を結成することまでも考えていなかつたので申請人の考え方を知つて驚き、常務と申請人の会合を仲介することをことわつた。

(ロ)  バー・ブルーシーにおける飲酒の際、申請人は同席していた松村、東川の両名に対して、組合の行き方を批判したうえ、その飲酒代金の半額は会社の高橋営業部長の負担でありうまくゆけば全額を負担してくれるかもしれないと述べた。

(ハ)  申請人は従来右松村等に対しいつまでも運転士でいる意思はない、職制となるのだと再三もらしていた。

これらの事実からして当時申請人には第二組合結成の動きがあつたものとみるべきであり、(イ)は組合の懲罰規則第二条(三)(イ)前段「使用者と認むべきものに通牒(これはいわゆる通謀の意味である)し組合に不利益な行為をなさんとしたとき」に、(ロ)は同条「使用者と認むべきものに買収されんとしたとき」に、それぞれ該当する。

二、除名処分の相当性

組合は結成以来七年余、申請人以外に一名の被除名者を出すことなく経過してきた。この間組合の行き方に批判的であつた者は申請人だけにとどまらないが、いずれも組合としてはその行き方に批判的である故をもつてその者を除名するということはなかつた。また、会社の常務等と申請人以上に親しく交際していた組合員は二・三にとどまらないけれども、これは単なる社交上の儀礼にとどまるかぎり私生活の問題であつてあえて組合としてとやかく言うものではない。しかしながら一で述べたとおり会社幹部と通謀して第二組合を結成し、よつて組合の破壊をはかつた申請人の行為に対しては組織防衛上これを組織体より排除することは、当然であり除名処分には何らの不当もない。

三、除名手続

(イ)  大会開催に至る経過、石田は前記一(イ)の事実を組合執行委員に、松村、東川両名は同(ロ)の事実を組合三役(委員長、副委員長、書記長)に、それぞれ報告したので、昭和三六年一二月三日、組合規約第九条により懲罰委員会を開いた。同委員会としては慎重に事実を調査するため、右石田、松村、東川から証言をきき、バー・ブルーシーに赴いて同店の経営者から前記(一)の事実を確かめ、さらに申請人の出席を求めて弁明をきいたところ前記各事実を認めたので申請人の所為が懲罰規則第二条(三)除名(イ)に該当するものと判断した。しかしながら除名処分に付されるとユニオンショップ協定により会社から解雇され、退職金等の面で不利益があり、また組合としても事態を穏便におさめるにこしたことはないと判断したので、申請人に任意退職を勧告した。申請人は右勧告に対して四八時間の余裕をおいてほしい旨回答し、右期間経過後さらに正式に組合大会にはかつてほしいと申出でた。そこで申請人もまじえて執行委員会を開き、申請人の意思どおり大会を開催することを決定した。

(ロ) 大会の招集、組合規約第一四条2註の規定はもつぱら定期大会にのみ適用され、臨時大会にあつては(i)緊急度の大なる場合、または(ii)出席者が大会の成立に異議を述べなかつた場合、には定足数その他の要件を充たす限り、その成立が認められるのが本組合だけではなく、労働組合全般について確立されている慣行であり前記所定の日時をおかなかつたからといつて臨時大会の成立が否定される訳ではない。本件にあつては組合は申請人が単に事件を大会の判定に委ねるにとどまらず事件の表面化を利用してただちに第二組合結成に乗り出す気配が濃厚であると判断し、このような策動の余地を与えないため止むを得ない措置として、申請人の大会開催の申出があつた翌日に招集したものであり且、大会には全組合員二二六名中最初一九三名、最終的には二〇二名が出席してその定足数を充たし、出席者中唯一人として大会の成立について異議を述べる者はいなかつた。したがつて大会は前記(i)(ii)のいずれの要件をも充たしているのである。このことは招集が電報で行なわれた場合でも、被招集者が大会に出席して異議を述べなかつた場合についてそのままあてはまるのである。

(ハ) 大会の運営、本大会においては申請人の除名に対する反対意見を封じたのではなく、そのような意見はなかつたのである。そればかりか、前記石田も申請人と同罪であるから除名せよ、との意見や、申請人の除名が可決されるまでにその除名を前提とするはなむけ演説が述べられ、かえつて執行部または議長からなだめられるものすらあつた。このように大会にあつては発言の公平を保障し、充分に討議をつくしたのち、無記名投票により除名賛成一六九票、同反対一九票、白票一六票という圧倒的多数で申請人の除名を決議した。

(ニ) 異議手続、かりに申請人主張のような事実があるとしても、本件除名には影響がない。懲罰規則第六条、第七条は通常の懲罰の場合に所定の機関がなした決定に対する不服申立についての審査権限を執行委員会に与えたものであり、除名についてはその重要性からみて懲罰委員会の決定を執行委員会で検討したうえさらに大会で決定するいわば大会自体が当然に再々審査を行なうという構成になつているとみるべきである。大会の最高機関性、および除名そのものの大会への提案者が執行委員会であることからみても、大会の除名決定に対して執行委員会は再審査の権限をもたないとみるべきであり、再審査の不適法という主張は理由がない。

第六、疏明関係<省略>

理由

第一、除名処分。

一、除名事由、前記当事者間に争のない事実のほか、除名事由とされているものについての当裁判所の事実認定およびそれらに対する判断はつぎのとおりである。

成立に争のない甲第一号証によれば、組合の懲罰規則第二条(三)除名についてはその事由として、(イ)使用者及び使用者と認むべき者に通牒、密告、買収等組合に不利益な行為をなし又はなさんとしたとき、(ロ)故意に組合の設備文書及び物品等を破壊、窃盗、隠匿し組合運営に妨害又は損害を与えたときの二つが規定されている。組合は、申請人の前記石田の件が右(イ)の「使用者と認むべき者に通牒」に、ブルーシーの件が同「買収」にそれぞれ該当すると主張するので、この点について考えてみる。

(1)  石田の件、成立に争のない疏丙第六号証の一に証人石田豊の証言を綜合すれば、まずつぎの事実が認められる。昭和三六年一一月一〇日頃会社常務高屋某はかねてから二、三回食事をともにしたりして個人的にも接触のあつた組合員石田に対して、一人でも多くの従業員と接触したいからこのつぎ会食をする際には申請人を誘つてくるようにと言つた。その翌日、石田は会社のガレージに格納してある自己担当車の中で、申請人に対して常務が会食しようと言うから行かないかと誘いかけた。申請人はこれに対して会社が第二組合結成のために自分達を利用しようとしているのではないか、それならば軍資金もいるし、もし失敗したときの身分保障はどうなつているのか、という意味の応えをした。石田は申請人のこの言葉を高屋常務に伝えたところ、常務はそれは自分の意図と異なるし、年末一時金要求闘争の前でもあるから会食の話はとりやめる旨を申請人に伝えるように石田に言つた。一方申請人は石田から会食の話をきいてのち同僚の松村勇に常務と会食をともにしようと誘つて同人からその応諾をうけていたので、この旨を石田に話していた。石田は軍資金とか第二組合結成に失敗したときの身分保障はどうか等という申請人の前記返答が会食とりやめの理由でもあるので申請人に直接とりやめを申入れず、右松村に対して常務の意図をつたえ会食のとりやめを告げた。右認定に反する申請人本人尋問の結果は前掲各疏明資料からみてたやすく信用できないし、他に右認定を覆すにたりる疏明資料はない。

(2)  ブルーシーの件、成立に争のない疏甲第四号証の一、三、疏丙第六号証の一、二および申請人本人尋問の結果を綜合すればつぎの事実が認められる。昭和三六年一一月二八日組合の会社に対する年末一時金要求闘争は組合の要求どおり集約され無事解決した。同日夕刻申請人は拡大闘争委員でもあつた東川勝彦に酒を呑みに行こうと誘つた。東川が金の持合せがないからと断わつたところ、申請人は知つているところがあるから一度部長に相談してみると言つて、東川とともに会社営業部事務所に高橋営業部長を訪ねて、無事集約したからどこか酒を呑むところはないかと言つた。高橋営業部長は申請人等を前に一度連れて行つたことのあるバー・ブルーシーの名をあげた。申請人、東川はさらに松村を誘い、高島滋の運転する車で出掛け、途中道頓堀のトリス・バーで三〇分位飲酒した。この際、申請人と松村は年末一時金闘争の結果について、申請人は会社の理解によるものであるとし、松村は組合の力によるものであるとして議論した。トリス・バーでの飲酒代金の支払は申請人がした。のち、三寺筋にあるバー・ブルーシーに赴き、ここで飲酒したが、申請人は以前高橋営業部長に伴なわれてこの店に来たこともあり、経営者とも顔見知であつたから、経営者の加藤扶美枝に「今日は金を持つていないが、高橋さんのツケで貸しておいてくれ」と頼みその承諾をうけた。ここでの飲酒代金は八〇〇〇円余であつたが、高橋営業部長の名目でツケにしておき、一二月中旬頃、申請人が加藤に電話して正確な金額をたしかめ、まもなく支払つた。申請人・東川・松村の間では飲酒代金の支払負担につきあらかじめ誰がどれだけときまつていた訳でもないので、本件除名後申請人から東川・松村に立替分の支払を請求し、東川は三〇〇〇円余、松村は一〇〇〇円余を申請人にそれぞれ支払つた。前掲各疏明資料の中には、右認定に反する部分が(疏甲第四号証の一を除き)それぞれあるけれども、いずれも前掲各疏明資料を綜合検討してこれを信用できないものとみるべく、他に右認定を覆すに足りる事実は疏明されない。

(3)  評価、(1)について。なるほど申請人が軍資金云々とか身分保障云々とか言つたことは発言内容自体反組合的言辞であることは明らかである。しかしながら発言のなされたのが石田からの誘いかけに応じてであること言いかえればそのきつかけが消極的、受働的のものであること、会食の誘いに対して、指名されたのは自分一人であるのにかかわらず、松村に対して同行するよう誘つていること(松村を第二組合結成のための有力な同志として申請人が意識していたとは認められないし、そのように意識するべき根拠も見当らない)、終局的には常務から断わられたのにもせよ現実に会食しておらず、申請人も会食の実現について石田とか、常務とかに催促している様子もないと認められること等の諸事情からみれば、申請人の前記発言は単なる冗談としてはその内容が組合員として不穏当なものであるが、それほど真剣な或は確定的な意図、目的に基づいてなされたものとは認められず、このことだけをもつてして、ただちに申請人が「第二組合結成の目的」で常務からの会食に応じたとはいえず、また常務が第二組合を結成させる目的をもつていなかつたことは前認定のとおりだから、そのような目的あるを知つて会食の誘いに応じたともいえない。したがつて、申請人が使用者と認むべき者に通牒し、または通牒しようとしたとは認められない。

(2)について。その時期が年末一時金要求闘争の終結後であること、飲酒代金も結局は申請人等で支払つていること、したがつてブルーシーにおいてはさしあたつて代金をツケにして貰う名目として高橋営業部長の名を借りたにすぎないとみられないでもないこと等からして使用者と認むべき者に買収され、又はされようとしたとは認められない。このことは成立に争のない疏甲第四号証の一、証人小林明吉の証言から認められる事実、すなわち申請人の言動が執行部で問題となり、組合委員長中川浜一と、書記長小林明吉が、調査のためバー・ブルーシーに赴き、三、〇〇〇円位相当の飲酒をしたときにもその勘定は高橋営業部長のツケとなつていることと対比してもたやすく肯定できるであろう。この外に申請人が、除名当時第二組合結成の意図を有し、或は何らかの結成準備活動を行なつていたという事実は認められない。尤も成立に争のない疏甲第四号証の二、三によれば、昭和三七年初めに至つて、山下裕己、高島滋等比較的申請人に同情的であつた者達八名が、申請人除名に対する執行部のあり方に不満をもつて第二組合を結成したが、これらの者は結成後まもなくいずれも会社を任意退職している事実が認められる。しかし申請人が直接右結成に関与していることは認められず、しかも第二組合結成は除名後に、むしろ除名が決定されたことを契機として行われていることからみても、申請人と第二組合結成とを結びつけるのは適当でない。

以上みてきたところによると申請人の言動は、いずれも組合の懲罰規則に定める除名事由に該当しないといわなければならない。一般に承認されている組合自治の理念からすれば、組合がどのような場合に組合員を除名するかは、組合だけが決定しうることであり、且決定するべきであろう。しかしながら組織防衛と組合員の地位保障というときに相反する二つの要請(就中組合が会社とユニオンショップ協定を締結している場合には後者の要請もまたかなりの比重をもつて考慮されるべきである)を調和するために、組合規約その他において除名についての何らかの基準が設定されている場合に、右基準にあてはまるかどうかの認定を(基準の具体的意義内容は客観的に定まつている)組合が誤まつて、組合員の除名を決定したとすれば、その除名はもはや組合自治の枠内にあるものとしては認容できず、客観的に妥当性を欠くものとして無効であるとしなければならない。このようにみてくれば、本件除名処分は、組合規約で定めた事由がないのになされた除名処分であるから無効のものというべきである。

のみならず、本件除名はこれを除名手続の面から見ても次に説示する如く無効と認めざるを得ない。

二、除名手続、前記当事者間に争のない事実のほか、除名手続について当裁判所の事実認定およびそれらに対する判断はつぎのとおりである。

(1)  大会。成立に争のない疏甲第一号証によれば、組合規約第九条には「除名に対しては大会の議に附し、出席者の三分の二以上の同意をもつて行なう」旨、同第一四条には「大会は組合員全体で構成する最高決議機関であつて、左記により開く」として「1定期大会毎年一回、九月、2臨時大会執行委員が必要と認めたときもしくは組合員の二分の一以上が議案を示して要求したとき」と規定されている。これらを綜合すれば、組合員の除名は組合の定期大会または臨時大会でのみ行なわれうるものというべきである。申請人はその除名決議のされた集会はここにいう大会ではないと主張し、且証人小林明吉の証言から真正に成立したものと認める疏丙第一号証によれば、申請人の除名決議直後、組合が除名による申請人の解雇を要求して会社に対してなした団体交渉の席上、組合は「本日の職場大会は時間の延長から臨時大会に切替えたので届を出します。時間が延長になると思つたので営業部長には届出ている」旨報告し、会社は「できるだけ事前に届出るよう。本日の場合は営業部長に届出ているとのことであるから諒承する」と回答している事実が認められる。このことからすれば、除名決議のなされたのは単なる職場大会にすぎなかつたようにもみえる。しかしながら招集者が組合執行委員会であること(このことは当事者間に争がない)および、前出疏丙第一号証(第八丁)から認められるつぎの事実、すなわち、議事録には「臨時大会」と記載されており、且開会の当初組合規約第一六条により組合員四分の三以上の出席を得ているので本大会は成立したものと認める旨の議長発言のあること(同条は第一五条「大会は組合員の三分の二以上の出席により成立し……以下略……」をうけて「上部団体に加入、脱退、及び争議行為の決定その他特に重要な事項にあたつては第一五条の規定にかかわらず、大会の成立要件は全組合員の四分の三以上の出席とする……」旨規定している)を併せ考えると、招集した者も、出席した者も通常の組合大会よりもその議題において重要なものとして意識しつつ運営されており、したがつて臨時大会として除名の当否が審議されたものとみるのが相当である。職場大会云々の件は作業時間中における労務不提供をめぐつて許可の要否等対会社関係の届出の面で当初そのように扱われたにとどまるしこれとても事後に補正追完されていると考えなければならない。

(2)  招集。招集についての時間的余裕につき、規約上の定めがあるのにかかわらず、組合執行委員会は右規定を遵守しなかつたことについては当事者間に争がなく、組合はこの点につき前記第五被申請人補助参加人の主張三除名手続(ロ)大会の招集にみられるような主張をする。大会招集に際しての時間的余裕は、あらかじめ示された議題についての被招集者の準備を完全たらしめ、その充分なる検討を経た意見の開陳を保障するばかりでなく、そもそも被招集者に大会への出席の能否をも決定させるべき重要な機能を営なむものであるところ、証人小林明吉の証言によれば、従来組合においては緊急を要する場合には(例・争議の妥結、闘争指令)必ずしもこの時間的制限に従わなかつたかのように窺われるけれども、事柄が執行部に委任されているとみるべき事項についてはあえて大会に附するにも及ばないのは当然であるとしても、性質上大会に附さなければならない事項についてまでこのような慣行があるとするならば、それは慣行が誤まつているのであつて、誤まつた慣行の存在は、誤謬を正当づけえない。けだし、組合員の多数、又は特別多数の意思決定に必要な措置を犠牲にしてまで、大会に付さなければならない事項を決定するほどの緊急性というものは、組合民主々義の理念から言つても容認しえないのである。

このような見地からみれば、「少なくとも三日前」と定められているのにかかわらず僅々一〇時間余の間隔しかおかずに招集された本件大会はその招集手続において重大なる瑕疵があるとみるべきである。そればかりでなく、証人小林明吉の証言によれば、自動車運転士としての勤務の性質上当然存在する明番、公休者に対しては、組合の費用節約という財政的理由および、わざわざ公休日に遠方から出社するということへの配慮から、大阪市内と堺の在住者だけに電報で招集をしたことが認められ、組合員全員に対する招集がされていない。これまた招集の重大な瑕疵というべきであり、組合の費用節約とか公休出社に対する配慮とかは何ら一部非招集の理由とはならない。電報による招集であつても、招集方法として不充分とはいえないし、議題の具体性がかなり稀薄であるとしても必ずしも重大な瑕疵とはいえないけれども、以上の二点、すなわち、時間的余裕をおいていないこと、一部をはつきり意識して招集しなかつたこと、の二点は、大会の成立を否定させるに足りる重大な瑕疵であるとみるべく、出席者が異議を述べなかつたことは何ら右瑕疵を治癒するものではない。けだし、右二点はいずれも出席できるかできないかにかかわる問題であつて、出席できないような状況におかれた者が、出席して異議を述べるということはあり得ないからである。されば、その余の点(大会運営並びに異議手続の適否)についての判断をするまでもなく、本件除名手続には無効の瑕疵があると認めなければならない。

以上、みてきたように、本件除名処分はその実体的事由の不存在という点からも、また除名手続―組合大会招集手続―の重大なる瑕疵という点からも、無効のものと断定せざるを得ない。

第二、解雇の効力。

本件解雇が、組合の除名を―そしてそれだけを―理由としてなされたものであることは当事者間に争がなく、成立に争のない疏甲第二号証によれば、会社、組合間の労働協約第二条には「乗務員は組合員でなければならない。但し会社と組合協議の上組合員として不適当と認めたるもの及び臨時雇傭期間中の者は之を除く」同第二八条には「組合において除名されたる場合原則として従業員としての身分を喪失する」と規定されていることが認められる。さらに、成立に争のない疏乙第三号証、丙第五号証、証人小林明吉の証言から真正に成立したものと認める疏丙第一号証ならびに証人小林明吉の証言によれば、つぎの事実が認められる。昭和三六年一二月七日、申請人の除名決議がなされた直後、組合と会社との間に、申請人の解雇をめぐる団体交渉がなされ、組合の解雇要求に対して会社は不当解雇になつても困るから慎重審議したうえ回答すると応えた。同月一一日になされた団体交渉の席で、組合は再度申請人の解雇要求、解雇に応じないならば会社を不当労働行為として提訴する旨通告し会社は裁判の結果、除名が不適当と認められた場合には組合が責任をもつことを条件とするならばということで同日付解雇を応諾した。同月一二日会社は食堂内に「告」と題して「朝日自動車労働組合の規約に定める機関の議決を経た床田正太君の除名処分について、会社としては組合員諸君が友愛の精神を以てこれを善処されることを祈念し、且かかる個人の人権と生活に関する問題については、当事者間において融和的解決をはかるよう要望致しましたが、其の効無く会社としては労働協約第三十八条(第二十八条の誤記と解すべきか)により床田君を解雇するのやむなきに至りました。床田君においては今後司法の場において真相を明らかにしたいとの意思を表明しておられるとのことでありますから、会社としては床田君の身分保障が勝訴となつた場合その一切の責は組合側にあり具体的な保障費のすべては組合の負担となることの確認を組合より得ておることを申し添えます。」という内容のビラを貼出した。これらを綜合すれば、会社の解雇は労働協約第二八条を根拠としてのみ正当づけられるのであり、以上みてきた諸事情は、会社が組合に対して、労働協約上の債務不履行の責を免れる事由とはなり得ても、解雇の効力を有効とならしめる事由とはなり得ない、換言すれば、ユニオンショップ条項を前提とする解雇の有効は、まずその前提となるべき除名処分の有効が肯定されてはじめて導かれうるのであり、いわゆる協議条項が存在するとしても、且会社が一応はそこで定められている協議義務を尽しているとしても、それは労働協約上組合に対して有する義務を履行したにとどまり、当該労働者に対する解雇自体を有効たらしめるものではない。本件にあつては、その前提となるべき除名処分が無効であることは前叙のとおりであるから、その有効を前提としてなされた本件解雇もまた当然効力のないものといわなければならない。

第三、保全の必要性。

申請人本人尋問の結果からすれば、申請人は解雇前は毎月二八日に会社から賃金の支払をうけこれで一家の生計を立てていたが、解雇された昭和三六年十二月十一日以後は右賃金収入も絶えたのみならず他に就職もせず、従来の貯金等によつてやつと家族三人の生計を維持していることが窺われ、且、申請人の会社で就業中の一ケ月の実収入が五万円を超えていたことは当事者間に争がない。だとすれば本件仮処分を求める必要性はこれを肯定すべきである。

第四、むすび。

以上、申請人の申請は理由があるから、保証を立てさせないでこれを認容し、訴訟費用については民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 宮崎福二 荻田健治郎 土山幸三郎)

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